2008.7.12
第8回公開研究会報告
■日 時:2008年7月12日(金)14時〜18時
■場 所:東京大学本郷キャンパス工学部新二号館9階93b
■参加者:約50名
■テーマ:「子どもの可能性を拓くメディア・リテラシー
——社会教育の場づくりから考える——」
<タイムテーブル>
14:00−14:10
ご挨拶:北村順生
(新潟大学、メル・プラッツ・オーガナイザー)
14:10−15:10
問題提起:高宮由美子
(NPO子ども文化コミュニティ、メル・プラッツ運営メンバー)
15:10−15:50
プレゼンテーション(1)
鈴木みどり(スキップシティ)
16:05−16:45
プレゼンテーション(2)
中川一史(メディア教育開発センター)
16:45−18:00
トークセッション
高宮由美子、中川一史、鈴木みどり
司会:水島久光(東海大学、メル・プラッツ運営メンバー)
■概 要:
2007年7月の第1回公開研究会から1年。2年目を迎えたメル・プラッツの今年度最初の公開研究会のテーマは「社会教育」。学校教育の外側で、あるいは学校教育と連携しながら社会のさまざまな場で実践されている学びの活動について、メディア・リテラシーとのかかわりから多彩な議論がくりひろげられた。
<高宮さんの報告要旨>
最初に登壇したのはメル・プラッツ運営メンバー、NPO子ども文化コミュニティの高宮由美子さん。子どもの社会参画と文化芸術を通した豊かなコミュニティづくりを目指し、福岡県を拠点に活動を展開してきた高宮さんは10年間におよぶ経験をふまえながら、メディア・リテラシー実践による社会教育の意義について次のように語った。
メディア・リテラシー教育が子どもに必要なのはなぜだろうか。それは生きることが表現することそのものだからだ。メディア・リテラシー実践はコミュニケーションの力を育み、新しい能力をもった人間を育てる。加えてそこには他者との出会いや対話、共同作業など現代の社会体験に欠けているものを補完する力がある。そうした体験を通じて子どもたちは学校とは違う世界が存在することを知り、違うあり方で表現することを学ぶ。
ではメディア・リテラシー教育を成功させるためにはどうすればよいのだろう。そのポイントは「楽しいことは育つこと」。楽しくなければ続かない。しかし楽しいだけでも続かない。「楽苦しい」体験をもたらすことが大切だ。そのためには到達可能な目標を定めて活動すること。そうすることで子どもの意欲が引き出されていく。同時に一人ひとりの子どもの出番をつくること。そうすることで子どもの責任能力と自己肯定感が伸ばされていく。
最後に高宮さんからの問題提起として、学校教育機関と社会教育機関とが連携し、それぞれの資源を組み合わせながら学びの場をつくっていくことの必要性が訴えられた。
<鈴木さんの報告要旨>
次に登壇したのはSKIPシティ映像ミュージアムの鈴木みどりさん。埼玉県の次世代映像産業拠点として川口市に設立された「SKIPシティ」で、日本初の制作体験型ミュージアムとして運営されている「映像ミュージアム」。そこで提供されている「映像学習プログラム」について詳しく紹介しながら鈴木さんは次のように語った。
映像学習プログラムは、メディアからの情報に対する適切な判断力を子どもたちが身につけること、さらに自己表現・意思発表のための技能を習得することを目的として運営されている。そしてそのための共同作業の場を実践すること、さらに作品発表の場を体験することを趣旨として運用されている。そうした目的と趣旨に沿って映像ミュージアムでは、出前授業による18時間の制作プログラムと館内での体験プログラムが提供されている。
ビデオニュース、アドビデオ、ビデオレターなど作品に応じて9種類のコースが用意され、オリジナル教材と認定インストラクターのもとで進められる18時間の制作プログラムは、総合的な学習の時間や国語、社会、美術の時間など学校の授業の中で広く活用されている。また体験プログラムでは映像編集やスタジオ収録などを館内で手軽に体験することができる。これらのプログラムに参加した子どもたちは平成19年度だけでも1万9千人以上におよぶ。
最後に鈴木さんからの問題提起として、学校での共同授業の経験から、通常の教科との違いを踏まえながら学校教育と社会教育とを両立させることの重要性が訴えられた。
<中川さんの報告要旨>
最後に登壇したのはメディア教育開発センターの中川一史さん。「メディア表現学習を通して、自分なりの発想や創造性、柔軟な思考を働かせながら自己を見つめ、切り開いていく力」を意味する「メディア創造力」を育成するための取り組みについて、教師の授業デザインを支援する立場から中川さんは次のように論じた。
メディア創造力を育成するためには映像と言葉の往復を促すような授業デザインを教師が心がけ、高めていくことが求められる。そのためのコミュニティとして中川さんが運営しているのが“D-project”だ。そこでは事例や教材の提供、授業研究、情報交換という三つの柱に基づく活動が広く展開されている。たとえばテーマ別のプロジェクトや各地域のワークショップが実践されたり、ウェブサイトやメーリングリストが運営されたりしている。
ではメディア創造力を育成するための授業には何が求められるのだろうか。そこではまず、(1)相手意識・目的意識を持つ、(2)見る、(3)見せる・作る、(4)振り返るというプロセスによる学習サイクルを循環させながら授業を進めることが求められる。さらに授業デザインのポイントとして、ディスカッションを通じて建設的妥協点を探ること、授業の枠の中に留まることなく本気・本物に迫ることなどの意識を持つことが求められる。
最後に中川さんからの提言として、子どもたち自身が社会に影響を与えているという実感をもてるような授業デザインを教師が心がけることの必要性が訴えられた。
<トークセッション>
続いてメル・プラッツ運営メンバー、東海大学の水島久光さんの司会により、3人の登壇者と来場者との間のトークセッションが行われた。そこではとくに文部科学省のガイドラインとの関係、あるいは評価方法との関係などから、通常の教科とメディア・リテラシー教育とをどのように両立させるかという問題が論じられた。総合的な学習の時間ばかりでなく、国語や社会など既成の科目の中でもいろいろなことができるのではないか、という意見がさまざまな立場から寄せられた。
<おわりに>
高宮さんの報告の最後に福岡市の水族館「マリンワールド海の中道」の館長、高田浩二さんが紹介された。高田さんは水族館を社会教育の場として位置づけ、学校教育と連携しながら豊かな学びを提供するための方途を探っている。こうした多様な領域にもメディア・リテラシーの知見が活用されていきつつあることに今後、私たちは目を向けていくべきだろう。(報告者:伊藤昌亮/メル・プラッツ運営メンバー)